一歩足を踏み入れると、目の前に現れるのはたくさんの木々や植物。美しい花に惹かれて足を向けると、わたしと同じように導かれたミツバチに行き先を譲ることになります。
そう、ここは都会の中心に位置する文京区・白山にある植物園。小石川植物園です。
江戸時代から続く、東京ドーム3.5個分の面積を誇る小石川植物園
小石川植物園は、植物学の研究・教育を目的とする東京大学の教育実習施設で、正式名称は「国立大学法人東京大学大学院理学系研究科付属植物園」と言います。
その歴史は古く、今から約340年前の1684年、徳川幕府が設けた小石川御薬園が前身で、それ以降ずっとこの地で豊かな植物と自然を育んできました。明治10年、東京大学が設立された後に付属植物園となり、一般公開されたのが正式な始まりとされています。
日本最古の植物園としてはもちろんのこと、世界でも有数の歴史を持つ植物園としても有名なのだそうです。
面積は161,588平方メートル。東京ドームに例えるなら約3.5個分もある広大な敷地です。台地・傾斜地・低地・泉水地など敷地内には様々な地形があり、これらを利用した多種多様な植物が配置されています。
四季折々の植物を鑑賞して楽しむことができるので、季節が変わるごとに訪れるのがおすすめですよ。
小石川植物園のエリア紹介と楽しみ方
広大な敷地面積を誇る小石川植物園。園内には様々な種類の植物が植えられており、見どころはたくさんあります。
今回はわたしが特に印象に残ったエリアを紹介します。
イロハモミジ並木
まっすぐ伸びた1本道の両脇に並ぶモミジの木。トンネルのように長く伸びた枝は、歩く人に挨拶をしてくれているようです。大切な人と手を繋いで歩きたくなる場所だなと思いました。
この並木の見所はもちろん、秋。紅葉の季節になると、空まで赤と黄色に埋め尽くされる絶景を見ることができます。都内でも有数の紅葉スポットとして名高いのも納得の景色です。
秋以外でも、新緑の季節は青々しい木々が気持ち良いくらいに空に伸びていて、夏は太陽の日差しを優しく遮ってくれる。冬は耐え忍ぶことの美しさを語るように、静かにこの場所に佇む。季節ごとに様々な顔を見せてくる、小石川植物園の名所のひとつです。
ニュートンのリンゴ
物理学者ニュートンが、リンゴが木から落ちるのをみて万有引力の法則を発見したという話は有名ですよね。その木は接木によって今も大切に育てられています。このリンゴの木は、なんとニュートンのリンゴの木の接木なのです。
世紀を揺るがす大発見も、実はとても身近な日常の中に潜んでいる。そんなことを実感させてくれます。
メンデルのブドウ
遺伝学の基礎を築いたメンデル。この木はメンデルが実験に用いたブドウの木の分株です。小石川植物園の二代目園長が大正2年に分譲を申し出、チェコのケーニギン修道院の旧実験室から送ってもらったものです。
この後、メンデル記念館のブドウが消滅してしまった際に、小石川植物園のブドウを里帰りさせて、現地にも同じブドウの株を復活させることができました。
ソメイヨシノ林
春になるとお花見スポットとして名高いエリア。公園ではなく植物園であること、ここでお花見をするには植物園の入場料を払う必要があることなどから、よくあるどんちゃん騒ぎのようなお花見はここにはありません。
お昼時に家族連れがお弁当を食べていたり、心から花を愛でたり、本当にゆっくりお花見を楽しみたい方にぴったりの場所です。ぜひレジャーシートを持って行ってください。
公開温室
小石川植物園に温室ができたのは1875年のこと。老朽化のため2019年に再建されたガラス張りの温室は、外観だけで楽しくなってしまうほどスタイリッシュな出立ちです。
中には絶滅危惧種の植物や、日本では見ることのできない様々な木々を見ることができます。
植物に触れることはできませんが、こんなふうに匂いを嗅いで楽しめます。
これはドリアンの木。生まれて初めてみましたが、木は無臭でした・・・!
教科書で見たことがある!と感動して思わず写真を撮りました。綿って本当にこんなふうに実をつけるんですね。
他にもコショウの木など、加工された状態しか知らない植物がたくさんありました。
「スーパーに売っている3枚おろしの魚しか見たことのない子供は、3枚おろしの姿のまま魚が海を泳いでいると思っている」という話がありますが、まさにわたしも同じでした。
日常的に食べているもの、使っている植物由来のものが、どんな形で自然界に存在しているのか。温室に行けば、その答えが見つかります。
日本庭園
元々は徳川5代将軍・綱吉が幼い頃に住んでいた白山御殿と蜷川能登守の屋敷跡に残された庭園で、江戸時代を代表する庭園のひとつです。
庭園内には大小たくさんの池があり、そこをなぞるように石畳の小径が通っています。素人目にみるとシンプルな造りですが、本来の地形を巧みに利用し、大人しい石組や地割の中に優れた技術が隠れているそう。
飾らない景色がとても心地よく、入り口からの長い道のりを歩いた疲れを癒してくれます。秋には美しい紅葉を見ることもできますよ。
植物園の一番奥にあるので人も少なく、わたしのお気に入りエリアです。
東京大学総合研究博物館・小石川分館(旧東京医学校)
日本庭園からみえる洋風の建物。1876年に建築された東京大学医学部の前身となる施設で、現在は建築博物誌・アーキテクトニカの博物館になっています。
和の雰囲気漂う日本庭園からみえるモダンな洋館は、文明開花を彷彿とさせるようで明治時代にタイムスリップしたような雰囲気を味わうことができますよ。
※ここは小石川植物園とは別施設です。入場するには、一度小石川植物園を出る必要があります。
- 休館日:月曜、火曜、水曜、年末年始
- 入場料:無料
- 開館時間:10時〜16時半
イロハモミジ並木、ソメイヨシノ林、日本庭園の付近にはベンチや座れるスペースがあります。お弁当を持ってきてピクニックをしたり、読書をして楽しんだり、お昼寝をしてみたり。植物を愛でながら、思い思いのゆっくりとした時間を過ごすのがおすすめです。
開花情報はホームページでチェック
小石川植物園のホームページでは、最新の植物の開花・紅葉の状況が都度更新されています。
ソメイヨシノやカエデの紅葉だけでなく、名前も知らない季節ごとの植物の状況まで、写真付きで更新されているのか嬉しいところ。
訪れる前にチェックして、お目当ての植物の状況を確認するのはもちろんのこと、名前も知らなかった植物がどんな様子で、どんな場所に咲いているのか、園内を探してみるのも宝探しみたいで楽しいですよ。
利用規則・訪れるときの注意点
小石川植物園はあくまで植物園であり、公園ではありません。環境保護のための利用規則を守り、気持ちよく利用しましょう。
禁止事項
- 園内の植物(落ち葉や落ちた果実も含む)や動物を採ったり、傷つけること
- 動物にエサをやること
- ペットを連れての入園
- 飲酒、喫煙
- 遊具、テント、ドローンなどの持ち込み
- ロケ地としての使用
- 楽器やスピーカーの使用
注意事項
- ゴミは持ち帰りましょう。
- 売店は園内に一ヶ所ありますが、自動販売機も少ないので、飲み物、食べ物は駅前のコンビニで買っておきましょう。
- 地面に座ってゆっくりしたくなる場所です。ビニールシートがあると便利でしょう。
- 園内は坂が多く、エリアによっては地面が舗装されていないため、歩きやすい靴を履いて行きましょう。
江戸時代から続く小石川植物園。その多くは植物の植樹のため、人の手が加えられていますが、傾斜地の植物はほとんど手が加えられず、昔のままの自然を残しているそうです。
園内は高い木々に囲まれているため、周りの高層ビルやマンションは視界に入りません。まるで森の中に迷い込んだかのような気持ちにさせてくれる場所、小石川植物園。
大都会東京のど真ん中で、深呼吸したくなる景色に会いに行ってみてはいかがでしょうか。
詳細情報・アクセス
・アクセス 都営地下鉄三田線 白山駅下車 A1出口 徒歩約10分
・開園日時 1月4日〜12月28日 AM9時〜PM4時半(入園はPM4時まで)
・休園日 月曜日(祝日の場合はその翌日)
・温室公開 AM10時〜PM3時